夜遅く、研究者が数式の並ぶ画面を見つめている。答えのない難問を前に、何度も考え直し、別の道を探す。そんなとき、画面の中のモデルが、試してみる価値のある考え方を示す。

OpenAIは、開発中の新しいモデル「Astra(アストラ)」について明らかにした。現在は社内で検証が進められており、公開時期は決まっていない。

注目されているのは、文章を作る速さや質問への受け答えではない。Astraは、数学や理論コンピューター科学の研究そのものに使われ始めている。

今回の研究では、幾何学や符号理論、群論、量子コンピューターなど、10の難しい問題が扱われた。解決に至ったとされるものもあれば、大きく前進した段階のものもある。「有名な難問を一気に10問解いた」と受け取るのは正確ではない。

研究の世界には、教科書の後ろに載っているような正解はない。うまくいきそうに見えた証明が、たった一つの見落としで崩れることもある。何十通りもの方法を試し、そのほとんどを捨てながら、残った可能性を丁寧に確かめていく。

Astraの役割は、休まずに考え続ける研究助手に近い。さまざまな方法を試し、長い計算を進め、人間が見落としていた道筋を示す。

もちろん、モデルが出した答えをそのまま研究成果にはできない。数学者が内容を読み直し、証明を書き直し、一つひとつの手順を確認する必要がある。Leanのような検証用ソフトも使われるが、最後はほかの専門家による厳しいチェックを受ける。

OpenAIは以前にも、「単位距離問題」と呼ばれる研究で社内モデルを使った。モデルが長年の見方を揺さぶる方法を見つけ、その後、数学者たちが証明を詳しく調べた。

大切なのは、機械が数学者に代わるかどうかではない。研究の進め方そのものが変わり始めていることだ。

どの問題に向き合うのか。その結果にどんな意味があるのか。それを考えるのは人間だ。一方で、長い計算や繰り返しの試行錯誤は、Astraのようなモデルが支えられる。

これまで数学者は、ノートや黒板を前に、一人で長い時間をかけて難問と向き合ってきた。これからは、そのとなりに新しい助手がいるかもしれない。

いつも正しいわけではない。それでも、行き詰まった夜に、次の一歩につながる一枚のメモを差し出してくれる存在になりそうだ。